信楽焼(しがらきやき)は、滋賀県甲賀市信楽町を中心につくられている焼き物です。
「信楽焼」と聞くと、たぬきの置物を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、信楽焼の魅力はたぬきだけではありません。
ざらりとした土の質感や、焼成によって生まれる温かな「火色(緋色)」、自然釉によるガラス質の表情など、土と炎が生み出す素朴な風合いに大きな特徴があります。
また、信楽は中世から現在まで焼き物づくりが続く「日本六古窯」のひとつに数えられる、歴史ある陶業地です。信楽町観光協会では、信楽で13世紀ごろから現在まで焼き物づくりが続いていると紹介しています。
この記事では、信楽焼の歴史や特徴、どのようなものがつくられてきたのかをわかりやすく紹介します。
信楽焼とは
信楽焼は、滋賀県甲賀市信楽町周辺で生産されている陶器です。
信楽周辺は良質な陶土に恵まれた地域で、昔から焼き物づくりが盛んに行われてきました。
信楽焼の土には、長石や石英などの粒が含まれており、焼き上がった作品には土そのものを感じさせるざっくりとした表情が生まれます。
また、信楽の土は耐火性に優れ、コシが強いため、小さな器だけでなく、大きな壺や甕、鉢などの制作にも向いています。伝統的工芸品産業振興協会も、信楽一帯の陶土について、可塑性とコシの強さを特徴として紹介しています。
現在では、
- 食器
- 花器
- 壺
- 茶道具
- 植木鉢
- 置物
- 建築用陶器
- タイル
など、非常に幅広い製品がつくられています。
信楽焼は「日本六古窯」のひとつ
信楽焼を知るうえで欠かせないのが、「日本六古窯」という言葉です。
日本六古窯とは、中世から現在まで焼き物づくりが続いている代表的な6つの産地を指します。
具体的には、
- 越前焼
- 瀬戸焼
- 常滑焼
- 信楽焼
- 丹波焼
- 備前焼
の6つです。
これらの産地は、日本で独自に発展してきた焼き物文化を現在まで伝える地域として知られています。
2017年には、六古窯の文化や景観をまとめたストーリーが文化庁の「日本遺産」に認定されました。
長い歴史を持つ信楽焼は、時代によってつくられるものを変えながら、現在まで産地として受け継がれてきたのです。
信楽焼の歴史
中世|生活に必要な壺や甕がつくられる
信楽では、中世から本格的な焼き物づくりが行われてきました。
信楽町観光協会では13世紀ごろから焼き物づくりが続いていると紹介されており、鎌倉時代には水甕や種壺など、生活に必要な大型の容器がつくられていました。
信楽の土は、大きなものを成形しやすく、焼成にも耐えられる性質を持っています。
こうした土地の素材を生かして、当初は人々の暮らしに密着した焼き物が多くつくられていたと考えられます。
室町~桃山時代|茶の湯の発展とともに茶陶として評価される
室町時代から桃山時代にかけて茶の湯の文化が発展すると、信楽焼も茶道具として使われるようになります。
信楽焼には、土のざらつきや火による色の変化、自然に付着した灰などによって、一点ごとに異なる表情が生まれます。
こうした素朴で不均一な美しさは、茶の湯で重視される「わび・さび」の感覚ともよく合いました。
水指や茶壺などの茶道具がつくられ、多くの作品が茶陶として評価されるようになります。
現在でも、古い信楽焼の茶道具は「古信楽」などとして鑑賞・収集の対象になることがあります。
江戸時代|生活雑器の生産が広がる
江戸時代になると、登り窯などを用いた生産が広がり、茶壺をはじめとするさまざまな生活用品がつくられるようになりました。
信楽焼は芸術的な陶器だけではなく、時代ごとに人々の生活で必要とされる品物をつくってきた産地でもあります。
こうした「暮らしに合わせてつくるものを変えてきた」という柔軟さも、信楽で長く焼き物づくりが続いてきた理由のひとつといえるでしょう。
近代|火鉢などの大型陶器が主要製品に
明治から大正、昭和にかけても、信楽焼は生活様式の変化に合わせて製品を変化させていきます。
特に大正時代から第二次世界大戦前ごろまでは、火鉢が主要な製品のひとつとなりました。
信楽の土が持つ耐火性や、大型の作品をつくりやすいという特徴が生かされた製品です。
その後、生活様式の変化によって火鉢の需要が減少すると、植木鉢や花器、食器、置物、建築用陶器など、さらに幅広いものがつくられるようになりました。
信楽焼の代表的な特徴
信楽焼は、見た目の装飾だけではなく、「土」と「焼き方」によって生まれる自然な表情が大きな魅力です。
粗く温かみのある土の質感
信楽焼では、長石や石英などを含む土が使われます。
そのため、表面には細かな粒が現れ、つるりと均一な磁器とは異なる、ざらりとした素朴な質感になります。日本六古窯の公式サイトでも、長石と石英の砂粒が混ざった肌合いが信楽焼の特徴として紹介されています。
土そのものの存在感を楽しめるのが、信楽焼の大きな魅力です。
火色・緋色と呼ばれる温かな発色
信楽焼を焼成すると、土の表面に赤みや橙色、ピンク色を帯びた発色が現れることがあります。
これを「火色」あるいは「緋色」と呼びます。
信楽の白味を帯びた土に、炎による温かな色が現れることで、人肌のような柔らかな印象が生まれます。
同じ形の器でも、窯の中で置かれた位置や炎の当たり方によって表情が変わることがあります。
自然釉・ビードロ釉
昔の信楽焼では、釉薬をかけずに高温で焼き締める方法が用いられてきました。
その際、窯の中で薪が燃えることで灰が作品に降りかかります。
灰と土に含まれる成分が高温で溶け合うと、表面にガラス質の層ができます。
こうした自然に生まれる釉薬を「自然釉」といい、青緑色や黄緑色を帯びるものは「ビードロ釉」などとも呼ばれます。
人が絵付けをして模様をつくるのではなく、土・炎・灰によって自然に表情が生まれるところが特徴です。
焦げ・灰かぶり
信楽焼では、焼成の際に薪の灰が積もった部分などが黒褐色になることがあります。
このような表情は「焦げ」や「灰かぶり」などと呼ばれます。
特に茶陶では、こうした焦げや灰によって生まれる枯れたような風合いが味わいとして評価されてきました。
火色、自然釉、焦げがひとつの作品の中に現れることもあり、それぞれ異なる「景色」を楽しめます。
大きな焼き物をつくりやすいのも信楽焼の特徴
信楽焼のもうひとつの特徴が、大きな焼き物をつくりやすいことです。
信楽の陶土は耐火性があり、粘りやコシが強いため、肉厚な作品や大型作品にも向いています。
その性質を生かして、
- 大壺
- 甕
- 火鉢
- 植木鉢
- 睡蓮鉢
- 建築用陶器
- 大型の置物
などがつくられてきました。
現在よく知られている大きな「信楽焼のたぬき」も、こうした大型陶器を得意とする産地の技術と無関係ではありません。
信楽焼=たぬきだけではありません
現在では信楽焼のたぬきが非常に有名なため、「信楽焼=たぬき」というイメージを持つ方も多いでしょう。
しかし、信楽焼の歴史を見ると、壺や甕、茶道具、火鉢など、その時代の暮らしに合わせた多様な焼き物がつくられてきたことがわかります。
現在でも、
- 茶碗や皿などの食器
- 花器
- 茶道具
- 植木鉢
- インテリア
- タイル
- 建築資材
- 陶芸作家による作品
など、幅広い信楽焼があります。
たぬきの置物は信楽焼を代表する存在のひとつですが、それだけで信楽焼の歴史や魅力を語ることはできません。
古い信楽焼には骨董品として評価されるものもあります
長い歴史を持つ信楽焼のなかには、古陶磁や茶道具、美術品として評価されているものもあります。
ただし、「古い信楽焼なら必ず価値が高い」というわけではありません。
実際の評価では、
- 制作された年代
- 作者や窯元
- 作品の種類
- 希少性
- 保存状態
- 共箱や箱書き
- 来歴
など、さまざまな要素が関係します。
実家や蔵から古い信楽焼が出てきた場合、見た目だけで価値を判断するのは難しいことがあります。
特に木箱に入っている作品や、銘・陶印があるもの、茶道具として大切に保管されていたものなどは、処分する前に陶磁器や骨董品の価値がわかる専門家へ相談してみるとよいでしょう。
まとめ|信楽焼は土と炎の表情を楽しむ歴史ある焼き物
信楽焼は、滋賀県甲賀市信楽町を中心につくられている、日本を代表する焼き物のひとつです。
中世から現在まで焼き物づくりが続く日本六古窯のひとつで、長い歴史のなかで、
- 壺や甕
- 茶道具
- 生活雑器
- 火鉢
- 植木鉢
- 食器
- 花器
- 置物
- 建築用陶器
など、時代の暮らしに合わせてさまざまな製品がつくられてきました。
信楽焼の特徴は、粗く温かみのある土の質感と、焼成によって生まれる火色や自然釉、焦げなどの豊かな表情にあります。
人がすべてをコントロールしてつくるのではなく、土と炎、灰、窯の中の環境によって一点ごとに異なる景色が生まれることが、信楽焼ならではの魅力です。
信楽焼のたぬきをきっかけに興味を持った方も、茶道具や壺、花器などに目を向けてみると、800年以上にわたって受け継がれてきた信楽焼の奥深さをより感じられるでしょう。
